chaser0/img0/Sudo-logo2015.jpg

ホーム 研究室概要 研究内容 プロジェクト メンバー 論文リスト 学会発表 計算機環境 学生・研究員募集 インターンシップ アルバム
YouTube 講義 CHASER 大気化学診断

研究内容

主な研究内容

 全球大気化学・エアロゾルモデリング(CHASERモデル開発)

大気中の各種物質(気体・エアロゾル)の全球分布や気候との相互作用を計算する化学・気候モデル CHASER (MIROC-ESM)の開発を軸にした研究・開発を行っています。以下の図1(左)は化学気候モデルの概略を示したものです。化学気候モデルの主な役割は、大別すると

  1. 各種大気成分の全球分布・変動
  2. 各種大気成分の気候影響

の2つを表現・シミュレーションすることにあります。このため、化学気候モデルでは、以下のようなプロセスを気候モデルをベースとして、できるだけ正確に計算することが求められます。

  1. 地表から大気への気体・エアロゾル(1次粒子)の排出
  2. 大気中の化学反応による各種物質の酸化(分解)や2次物質(オゾン、2次粒子)の生成
  3. 大気中の物質輸送過程および地表・降水による沈着除去過程
  4. 排出・生成された気体・エアロゾルの大気放射過程への影響(放射の吸収・散乱)
  5. エアロゾルの雲・降水過程への影響(エアロゾル-雲・降水の相互作用)

図1図2

図1. (左)化学気候モデルの概念図と(右)最新版CHASERモデルの概略

図1(右)は、本研究室で開発しているCHASERモデルの現状を示しています。CHASERモデルでは、気候モデルMIROCをベースとして、対流圏・成層圏でのオゾンを中心とする化学反応(250以上)、トレーサー輸送、沈着の各過程を計算し、放射・雲への影響を考慮しています(一部SPRINTARSモデルと連携)。エアロゾルに関しては、硫酸塩・硝酸塩・SOAの生成について、化学反応とリンクしたシミュレーションが実装されています。また、黄砂などのダスト粒子表面上の不均一反応を考慮し、二酸化硫黄(SO2)がダスト表面上で硫酸(硫酸カルシウムCaSO4)に変化する過程も試験的に取り入れ検証を行いつつあります。ダストについては、雲水中で、硫酸や硝酸等の陰イオンを、アンモニウム(NH4+)とともに中和する過程も表現しております。また、BCが大気中で硫酸などの凝縮により疎水性から親水性へと変化し吸湿性を獲得する変質過程も表現しています。二次有機エアロゾル(SOA)については、イソプレンやテルペン類の酸化過程からの生成を化学反応計算とリンクさせながら計算しています(計算結果の一例は、YouTubeで閲覧することができます)。このように、CHASERでは化学反応とリンクして各種物質濃度分布や気候影響のシミュレーションを行うため比較的大きな計算コスト(計算量)を要しますが、このような化学・気候モデルシミュレーションの固有のターゲット・ミッションは、1) 成層圏オゾン化学、2)対流圏オゾン化学、3)大気酸化能(OH分布)、 4)メタン濃度変動、および5)エアロゾル-化学の相互作用を正確に表現・計算することにあり、気候や大気環境の正確な予測に貢献しています。

 化学・エアロゾル気候モデルによる気候変動・温暖化研究

前述のとおり、化学気候モデルの大きな役割の1つは、各種大気成分の気候影響を理解・予測することにあります。それでは、具体的にどのような物質が気候に影響するか図2で見てみましょう。なお、当研究室では、二酸化炭素(CO2)を筆頭とする気候影響物資のうち、大気中の寿命が短い短寿命気候影響物質(SLCFs:Shorf-lived Climate Forcers)をとくにターゲットにして研究を進めています。まず、大気汚染・光化学スモッグの主要成分であるオゾンと黒色炭素・ブラックカーボン(BC)は太陽放射(短波)や地球放射(長波、赤外)を吸収し、温暖化を加速させる効果を持ちます。また、メタン(CH4)は強力な温室効果気体として知られていますが、オゾンの化学反応過程に深く関与し、また大気中の寿命も10年弱と見積もられていることから、CO2とは違い、短寿命成分として扱ったほうが合理的です。これら、オゾン、BC、CH4の3種は、CO2以外で温暖化に正の影響を与える加熱性の物質としてとらえられており、最近では短寿命気候汚染物質(SLCPs)と呼ばれています。一方で、SO2やNOxの酸化反応で生成される硫酸塩(SO42-)、硝酸塩(NO3-)や、有機炭素エアロゾル(OA)は、吸湿性があるために、大気中で雲のように太陽光を散乱・反射させ、また、雲核として雲・降水を変化させ、温暖化に負の影響(冷却効果)をもつとされています。

chaser0/img0/SLCFs-01.pngchaser0/img0/new/CHASER-RF.png
図2. 短寿命気候影響物質(SLCFs)と気候影響図3. CHASER (MIROC-ESM)による、CO2と各種SLCFsの放射強制力の推定(1850-2005年)

これらのSLCFsについて、どの物質がどのように気候に影響するかあきらかにする実験をCHASER(MIROC-ESM)を用いて実施しています。図3は、各種SLCFsの1850-2005年の間の変動が及ぼす放射強制力のCHASERモデルによる推定例です。BCや対流圏オゾン(O3)、メタン(CH4)などの加熱性汚染物質(SLCPs)による正の強制力(加熱)や硫酸塩・硝酸塩やOCなどのエアロゾルによる負の強制力(冷却)が共存し、部分的に打ち消し合い、拮抗していることがわかるかと思います。汚染物質の気候影響における、このような構造は、将来の大気汚染物質の削減や温暖化の低減・遅延策を検討する上で、非常に重要なポイントとなっています。つまり、たとえば、大気汚染物質の排出量を削減する策では、PM2.5汚染問題の低減、また同時に、BCの削減によって温暖化の抑制も期待でき、2面での有益性(供便益; co-benefit)を見込むことができます。しかし、BC以外のエアロゾル(硫酸塩・硝酸塩や有機炭素)も同様に削減される場合、これらのエアロゾルは冷却効果を持つことから(図3)、この削減策によって、温暖化が加速(加熱)する懸念があります。したがって、温暖化・大気汚染の両問題を同時に意識しながら削減策を検討することが求められており、どのSLCFsの排出量を、どのタイミングでどのように変化させるかを見出し、施策に繋げていくことが喫緊の課題となっています(研究プロジェクト・環境研究総合推進費S-12、S-7参照)。

また、人間活動の影響以外でも、陸域・海洋生態系が大気化学・エアロゾル(VOCs・CH4の放出、エアロゾル生成)を介して気候に影響する可能性もあります。当研究室では、このような自然変動要因も化学・気候モデルに導入する試みも行っています(研究プロジェクト・科研費基盤(A)参照)。

 物質の長距離輸送と起源の推定・評価

大気化学気候モデルCHASERでは、各種汚染物質(現在はオゾン、CO、BCのみ)の全球分布について、その起源を推定するシミュレーション(タグトレーサー実験)が可能です。タグトレーサー実験では、各種汚染・ソース領域から、遠隔地へ、そして全球領域に、どのように、どれくらい輸送・拡散するか、大気中の化学変化も加味しながら計算しています。一例として、地表付近のオゾンは、対流圏中で化学反応で生成されたものと、成層圏オゾンが地表に下降・輸送されたものの2つの寄与からなりますが、モデルでは、以下のように、成層圏を起源とするO3成分を個別にトレーサー輸送させ、成層圏起源のO3濃度を推定・抽出することができます。

chaser0/img0/youtube_logo.jpg

さらに、モデルでは、対流圏中のソースとして、欧州・北米・アジアなどの各種汚染領域からの寄与を詳しく分離して輸送を計算しています(図4)。このような計算から、各種物質の全球分布について「どこから、どれくらい、どのように、やってくるのか?」ということを文字通り検討することができ、極域や遠隔地における観測で得られた濃度分布や時間変動を詳しく評価・解釈することを可能としています(たとえば、北極・南極のBCはどこから、どのようにやってくるかという問題を検討したりしています)※タグトレーサー実験の結果はこちらのページから参照可能です。各種ソース領域からの長距離輸送や寄与の推定については、汚染物質の半球間輸送に関する国際プロジェクト(HTAP2: Hemispheric Transport of Air Pollution)におけるエミッション変化感度実験でも検討中です(研究プロジェクト参照)。

図1

図4. CHASERタグ付きトレーサー計算による、各ソース領域からのO3の長距離輸送の推定

参考文献

  1. Sudo, K., and H. Akimoto (2007) Global source attribution of tropospheric ozone: Long-range transport from various source regions, J. Geophys. Res., 112, D12302, doi:10.1029/2006JD007992.
  2. Nagashima, T., Ohara, T., Sudo, K., and Akimoto, H. (2010) The relative importance of various source regions on East Asian surface ozone, Atomos. Chem. Phys., 10:11305-11322.

 物質分布変動の要因推定と将来予測

CHASERモデルは、気候モデルを土台としているため、各種物質分布の時間変動について、1)排出量(エミッション)や化学過程の変動、2)気象場の変動による輸送過程の変動を分離することが容易にできます。

図1

図5. 熱帯域対流圏オゾン分布変動パターンを、輸送パターンの変動、化学過程の変動の寄与に分離

参考文献

  1. Sudo, K. and M. Takahashi (2001) Simulation of tropospheric ozone changes during 1997-1998 El Nino: Meteorological impcat on tropospheric photochemistry, Geophys. Res. Letters., 28, 4091-4094.
  2. Sekiya, T. and K. Sudo (2012), Role of meteorological variability in global tropospheric ozone during 1970–2008, J. Geophys. Res., 117, D18303, doi:10.1029/2012JD018054.
  3. Sudo, K., M. Takahashi, and H. Akimoto (2003) Future changes in stratosphere-troposphere exchange and their impacts on future tropospheric ozone simulations Geophys. Res. Letters., 30, 2256 10.1029/2003GL018526.
  4. Kawase, H., T. Nagashima, K. Sudo, and T. Nozawa (2011), Future changes in tropospheric ozone under Representative Concentration Pathways (RCPs), Geophys. Res. Lett., 38, L05801, doi:10.1029/2010GL046402.

 化学・エアロゾル気候モデル開発における課題

chaser0/img0/cat_26.gif