モデル開発・研究の方向性と目的

  CHASER (CHemical AGCM for Studies of atmospheric Environment and Radiative forcing)は対流圏・成層圏におけるオゾンを中心とした大気光化学過程を全球的にシミュレート(計算)し、その気候への影響を評価する化学・気候結合モデル(Chemistry Coupled Climate Model)です。 本モデルはCCSR/NIES/FRCGC気候モデル(*注1)を土台としており、 大気組成変動の全球的な気候影響を定量的に評価することを主な目的としています。さらに、各種汚染物質(気体成分およびエアロゾル粒子成分)の全球分布や長距離輸送(大陸・半球間輸送)とそれらの変動過程を解明するため、化学輸送モデルCTM(Chemical Transport Model)としても、本モデルの開発・研究が進められています。

 背景:成層圏のオゾン(オゾン層)は人体・生物に有害な紫外線を遮断する重要な役割を持ち、近年のオゾンホール等に象徴されるオゾン層破壊が懸念されています。一方、対流圏では窒素酸化物(NOx)などの汚染物質からオゾンが生成されます。対流圏のオゾンは重要な温室効果気体であり、その温暖化影響が指摘されています(二酸化炭素の約1/3、またはメタンと同等の影響があると見積もられています)。また、オゾン自体は人体・生物に有害であるため(光化学スモッグの主要成分)、地表付近オゾンの濃度増加も同様に懸念材料となっています。地表付近および対流圏におけるオゾンは太陽光と豊富な水蒸気の下で化学反応によりOHというラジカル種を生成します。このOHラジカルはメタンや代替フロンなどの温室効果気体の大気中での寿命を支配しているため、対流圏のオゾンが間接的にこれらの温室効果気体変動に関与する可能性もあります。さらに、オゾンを中心とする対流圏の化学反応過程は硫酸塩や有機炭素などのエアロゾル粒子・雲凝結核(CCN)の生成に影響し、雲・降水過程の変動にも関与していると考えられています。

 とくに地球環境の将来予測という観点も含めると、このような成層圏・対流圏におけるオゾンやエアロゾルの分布とこれらの気候・大気環境への影響を考察できるモデル・フレームワーク(枠組み)が要求されます。我々のグループでは、気候モデルを土台として成層圏・対流圏化学の全球シミュレーションが行える化学・気候結合モデルCHASERの開発およびCHASERを用いた研究を展開しております。さらに、エアロゾル・気候モデルSPRINTARS(*注2)と連携し、 化学・エアロゾル・気候結合モデルへの発展・拡張を図っています。




注1:東大・気候システム研究センター(CCSR)国立環境研(NIES)地球環境フロンティア(FRCGC/JAMSTEC)が共同で開発している大気(海洋)大循環モデル
 注2:全球エアロゾルモデルSPRINTARSと連携



CHASER開発・研究体制

開発拠点 名古屋大学および海洋研究開発機構/地球環境フロンティア研究センター(JAMSTEC/FRCGC)
研究連携 名古屋大学、海洋研究開発機構、国立環境研究所、東大気候システム研究センター
連携モデル CCSR/NIES/FRCGC 気候モデル
SPRINTARSエアロゾル気候モデル
共生(K2)地球システム統合モデル
※K2地球システム統合モデルでは、CHASER・SPRINTARS両モデルが結合・導入され、炭素循環、大気組成(気体・エアロゾル粒子成分)、および植生の変化がどのように気候・地球環境に影響するか、総合的に理解・予測するための研究が行われています