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研究室概要

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 研究室の概要: 

 当研究室では、グローバルな環境問題の定量的理解の向上、将来予測のための研究・教育を行っています。グローバルな環境問題とは、具体的には1)地球温暖化、2)大気汚染・越境汚染、3)成層圏オゾン変動の3つの問題のことであり、いずれの問題においても大気中の物質が重要な役割を果たしています。また物質を介して、それぞれの環境問題が相互作用する点も無視することができません。たとえば、対流圏のエアロゾル(PM2.5など)や光化学オキシダント・オゾン(左下図)は、都市・ローカルな大気汚染を引き起こしているだけでなく、半球〜全球規模で輸送され、大気中における放射や雲・降水に影響し、温暖化や気候変動の問題にも深く関与しています。また、逆に地球温暖化は、大気循環・水蒸気・雲の変動を伴い、大気の物理化学過程や輸送過程を通じて、成層圏・対流圏オゾン、メタン、およびエアロゾルの全球分布に影響します。しがって、右下図が示すように、大気汚染と地球温暖化、およびオゾン層変動の間には物質を介した強く複雑な相互作用があると考えられています1

汚染物質の流れ汚染物質の流れ


 当研究室は、このような相互作用も含め、上の3つの環境問題に幅広く対応するため、大気中の物質と関連する物理化学過程や輸送過程、および気候影響過程を扱うことのできる化学・輸送・気候モデルの開発・応用を主軸として、全球規模の研究を展開しています。 左上図は一例として、当研究室で開発している全球化学気候モデル CHASER によって計算された各種汚染物質の流れを示したものです。上空の風によって、各種汚染物質が汚染域(アジア域)のみならず、太平洋・北米にまで流出している様子がみられます。モデルでは、さらに、各種汚染物質が大気中の放射や雲・降水に与える影響も計算し、気候への影響を考慮し、大気汚染や大気組成変化がどのように気候に影響するか評価しています。 (※CHASERモデルによる計算結果は、YouTubeチャンネルCHASER動画コーナーでも閲覧可能です) また、CHASERを用いて、各種物質の全球分布について、長距離輸送や起源(どこからどのように流れてくるか?)を探る研究(CHASERタグトレーサー実験2や、観測で確認されている現象や物質の時間変動の要因を分離して解釈する研究(たとえば、温暖化に対する各物質の寄与の分離・定量化、オゾン・メタンやエアロゾルの濃度変動について、エミッション変動・気象変動・バイオマス燃焼などの要因ごとの寄与の推定3)など、モデルの利点をフルに活かした研究も実施しています。

 大気化学過程は、陸域生態系(植物・土壌微生物)とも強い関連/相関を持っています。たとえば、メタン(CH4)や亜酸化窒素(N2O)は、強力な温室効果気体であり、オゾンの生成や破壊にも関与しますが、これらの大気中濃度・分布は土壌や水田・農地等の陸域生態系からの放出の変動に大きく依存することが知られています。また、とくに森林植物は大気中に揮発性有機炭素化合物VOCs(イソプレンやテルペン類など)を多量に放出していることが明らかになっています。これらのVOCsは大気中の酸化反応により、対流圏でのオゾン生成・破壊に関与し、また二次有機エアロゾル(SOA)の生成にも深く関連することから4、土地利用変化や気候変動に伴う植物活動の変化が、気体・エアロゾルを変化させ、結果的に気候にも影響する可能性が示唆されています5。 そこで本研究室では、大気化学・気候モデルに、陸域生態系・微量ガス交換モデルVISITを組み合わせ、このような大気化学と陸域生態系との相互作用を詳しく定量化する実験をも行っています研究プロジェクト参照。さらに、我々のこのようなモデリング活動は、気候モデリングにおける地球システムモデル (大気・海洋・陸域の物質を介した相互作用を全て含んだ気候・地球環境予測モデル)MIROC-ESM 6 として発展を遂げてきております。

参考文献

  1. 須藤健悟 (2014)「地球温暖化-第4講 大気汚染と地球温暖化-」、大気環境学会誌、49(2), A25-A35. 【PDF】
  2. Sudo, K., and H. Akimoto (2007) Global source attribution of tropospheric ozone: Long-range transport from various source regions, J. Geophys. Res., 112, D12302, doi:10.1029/2006JD007992.
  3. Sekiya, T. and K. Sudo (2014): Roles of transport and chemistry processes in global ozone change on interannual and multidecadal time scales, J. Geophys. Res., 119, 8, 4903-4921.
  4. 須藤健悟, 荻原由紀恵(2012)、 「化学気候モデルにおける二次有機エアロゾルの全球モデリング」 、 エアロゾル研究 , 27巻 1号 (頁:51-61)。【PDF】
  5. 須藤健悟,他(2009)「植生改変・エアロゾル複合効果がアジアの気候に及ぼす影響の評価」、低温科学、68、129-136. 【PDF】
  6. Watanabe, S., Hajima, T., Sudo,K., Nagashima, T., Takemura, T., Okajima, H., Nozawa, T., Kawase, H., Abe, M., Yokohata, T., Ise, T., Sato, H., Kato, E., Takata, K., Emori, S., and Kawamiya, M.(2011) MIROC-ESM 2010: model description and basic results of CMIP5-20c3m experiments, Geosci. Model Dev., 4, 845-872, doi:10.5194/gmd-4-845-2011.


  研究室の特色・キーワード

専門領域手法主な研究ターゲット主な対象物質
・大気化学
・気象学
・気候学
・化学気候モデル
・化学輸送モデル
・衛星データ解析
・データ同化*
・温暖化の要因推定と予測
・広域大気汚染
・越境汚染
・汚染物質長距離輸送
・汚染物質の起源推定
・火山性エアロゾルの影響評価
・全球大気組成変動・変化
・大気酸化能力とその変動
・大気化学・気候相互作用
・大気化学・エアロゾル相互作用
・窒素の沈着・循環
・陸域生態系・大気化学相互作用
・対流圏オゾン(O3)
・成層圏オゾン(O3)
・窒素酸化物(NOy)
・硫黄酸化物(SOx)
・一酸化炭素(CO)
・揮発性有機炭素(VOCs)
・メタン(CH4)
・OHラジカル
・エアロゾル(PM2.5)
・黒色炭素・ブラックカーボン(BC)
・二次有機エアロゾル(SOA)

*JAMSTEC(海洋研究開発機構)との共同研究

  研究室の研究タスク

  • 大気中の汚染物質・気候影響物質の分布や挙動をできるだけ正確に表現可能な全球モデルの開発/応用
  • 広域〜全球規模の大気組成変動(O3,CH4,VOCs,NOx-SOx,BC/OC/SOA等エアロゾル)とそのメカニズムの網羅的な解明
  • 大気組成変動(人為・自然起源)が気候に及ぼす影響の解明
  • 大陸間・半球・全球スケールの大気中物質輸送過程とソース起源解析
  • 温暖化抑制・大気汚染低減のためのエミッション削減方法の提言と将来予測
  • 大気組成(大気化学過程やエアロゾル)と気候との相互作用の定量的解明
  • 大気組成と陸域生態系との相互作用のモデル化

  研究室の教育タスク

  • 大気化学的知識の体得
  • 気象学・物質輸送的観点の育成
  • 事象・現象を時空間的に分離して理解する能力の育成
  • データ解析・プログラミング・情報機器の習熟